釣り人の遭難事故例

1 日和佐町磯場での釣り人遭難事故


 1979年10月14日、徳島県日和佐町の地磯である王瀬の磯で、釣り人が高波にさらわれて遭難した。
この磯は、過去にも何人かの犠牲者を出したところである。

 突然、5mを超す高波が打ち寄せ、一瞬にして2人の釣り人を押し流した。
そのうちの1人は、救命具を着用していたため、1時間あまり漂流したのち救助されたが、他の1人は、5日後に遺体となって収容された。

事故の教訓

  •  この遭難事故当日の天気図を見ると、発生した台風が、天気図のはるか南方海上にあり、天気図からはみ出していた。
    このような場合、天気図を見た釣り人は、絶好の釣り日和と思い込 んで、釣り場に出かけてくると、海が予想もしないうねりで荒れている のに驚く。

     この様なとき、人は、台風による海の荒れと考えず、都合の良い方に考え、そのうち弱まるだろうと解釈しやすい。
  •  遭難した2人のうち、1人は救命胴衣を着用していたので救助されたが、もう1人は 死亡した。
    救命胴衣は、正しく着用していないと役に立たない。

2 坊津町磯場での釣り人遭難事故


 1999年3月22日1000頃、鹿児島県坊津町の東シナ海に面したリアス式海岸の釣り客に人気のある岩場で、斜面の崖をロープを伝って下りた3人が、岩場に腰を下ろして休んでいたところ、Sさんが、あっという間に波にさらわれ海中転落した。

 2人が、ロープを投げてSさんを助けようとしたところ、別の高波が岩場を襲って来て、IさんとUさんも相次いで波にさらわれた。
Sさんは、自力で岩場に泳ぎ着き、県の防災ヘリで救助されたが、Iさんは、3時間後に海上保安部のヘリで引き上げられたが、搬送先の病院で、死亡が確認された。Uさんは、行方不明となった。


補足説明

  • 事故当時は、満潮で、現場周辺では、北西10〜15m/sの強い風が  吹き、4〜5mの高波が押し寄せていた。
  • 3人とも、救命胴衣を着用していた。

3 高知県土佐町での釣り人遭難事故


 1969年11月30日0640頃、土佐町の沖約4kmに浮かぶ、通称「小島の磯」は、うねりが相当高かったが、渡し舟で、釣り人5人は無事渡磯し、海面上7mの安全な平坦部に陣取った。0800頃から、風が強くなって竿がしなるようになり、岩の溝を通った波しぶきが、下で釣りをしていた3人にかかるようになった。

 0900頃、大きな波が来て、下の3人のリュックサックがずぶ濡れになったので、ロープを投げて荷物を引き上げた。
後は、2人が上がってくるだけとなり、波間を測っていた。その時、4m程の大波が横殴りに打ち込んで来た。「アブナイ伏せろ」と怒鳴ったが、立ったまま抱き合った2人の姿はなかった。

 5分も経った頃、20m先の白泡の中に浮かんでいる、2人を認めた。
落ちた2人は、岸に向かってもがいていた。「沖に向かって泳げ!」と大声でどなり、タオルを振って、沖の釣り船に合図を送った。
転落したAさんが、2声叫んだのが聞こえた。風は岸に向かって強く吹き付けていたから、救命具を投げても届かないことは分かっていた。

両人は、ゆっくりと沖に流されて行方不明となった。


補足説明

  • 天気予報では、気圧の谷が通過するので、午前中は雨が降り、多少波があるとのことであった。
  • この小島は、後ろが絶壁になっていて、逃れるところがなかった。
  • 入り組んだところであったので、高波の状況判断が難しかった。
  • 救命具を持っていなかった。

事故の教訓

  • 行き先の気象、釣り場の状況を検討してから出かける。
  • 釣りを始める前に、足場の安全を確認する。
  • 満潮時の前後は、波が打ち込みやすいので、気を付ける。
  • 高波は、気圧の谷の通過後に起こる。
  • 釣り道具より、身の安全を第一に考える。