「気象現況」で提供する波高について

「気象現況」は、観測所地点における気象(風向、風速、気圧、波高)情報を提供しています。 観測地点に設置された気象観測機器により、決められた時間及び間隔で自動的に観測し収集しています。
「波高」は、当庁で開発した「レーダ波高計」により算出された波の高さです。
レーダ波高計は、レーダ電波を発射して波の高さを測定し、その観測地点の地形等から受ける影響を補正して、波の高さを算出します。
そのため。目視で観測す波の高さより、若干低いと思われるかも知れません。
また、観測が1地点での計測に基きますので、海底の形状や風の吹き方など、周囲の地形から影響を受ける波の性質上、そのままの値を広い範囲へ適用する事ができません。そのため、観測値は参考としてご活用下さい。

こちらでは、この「波高」について解説します。

(1) 波高とは

波高とは、波の高さを言いますが、一般的に「有義波高」が用いられます。 有義波高とは、ある地点で連続する波を観測したとき、高い波から順に全体の3分の1個の波を選び、これらの高さ(高)と幅(周期)を平均したものを言います。 様々な大きさの波が混在する実際の海面において、波高を定義するのに適しています。

上図ではH3が最高でH2が最低を示し、このような波の変化幅を100個測定したとした場合、H3→H4→H1・・と変化幅の大きい方から1/3を抽出し、これを平均したものを一般に「有義波高又は1/3波高」として定義しています。

 

(2) 波高を計算で求める

波高の解析にはSMB法と言う方法が広く使用されています。 SMB法とは、風速、吹走距離、吹続時間の3つの要素から波高を算出します。 吹走時間と波高の関係は、風速35mの風が、吹走距離100kmを4時間吹いた場合(吹走時間)、波高は6mとなるような関係があります。

ただし吹走時間が、6~8時間を超えると頭打ちの域に入ります。 また、吹走距離と波高では、風速25mの風が、吹走距離60km吹くと、波高は4mとなるような相関関係があります。 風速により波高が頭打ちになる距離は異なり、風速5mでは60kmから、風速10mでは約200kmとなっています。

 

(3) 波高を機械で計る方法

波高を計る機械にはつぎのようなものがあります。

a. 超音波波高計

超音波センサーを海底に設置し、海底から発射した超音波の海面反射を受信して計測を行います。 この方法は、暴風時等に海面が撹乱し気泡が生じた場合などはうまく測定出来ません。

b. 水圧式波高計

水圧センサーを水深10m程度の海底に設置し、この水圧変化から波高を計算します。深い場所に設置できず、設置箇所の水深より小さいものしか計れません。

c. 電極式波高計

海上に設置した構造物から海底に向け電極を2本垂らし、この電極間の電気抵抗値や電気容量を測定する事により波高を計算します。この方式は、施設の維持が難しく、水温変化等に影響を受けます。

d. 浮体(ブイ)式波高計

海面に浮かべた浮体に、GPSや加速度センサーを設置して、波高を観測します。これらの方式は、装置が大掛かりになり経費が掛かります。

e. レーザ波高計

海面に向け垂直方向にレーザ光を発射し、反射時間から波高を計算します。 この方式は、海上構造物が必要で、浅瀬での使用が主となります。また強いレーザ光を必要とする場合も安全面で問題が生じます。

f. 電波式波高計

レーダ波を使用して波高を計測するレーダ波高計と、短波波を使用する海洋短波レーダがあります。 MICSで使用する波高は、このレーダ波高計を用いて計測しています。 レーダ波高計は、海上保安庁で開発された装置で、風向や風速などで補正計算を行って、波高を算出しています。 海洋短波レーダは、海面(表層)の流れを測定するために、国や多くの研究機関が全国に観測網を展開しています。波高的には、約3m程度が測定可能と言われますが、主は表層流の測定を行うためのものです。

(4) 提供する波高値を利用するうえでの注意事項

利用には次の点に注意をお願いいたします。

a. 地形による誤差

波高は、風速、吹走距離、吹続時間の3つの要素で大きさが決まります。

場所により、特定方向からの吹走距離が極端に短い場合などがあります。

同じ時間においても、地形の影響からそれぞれの場所における波高は異なる場合があります。

b. 提供する波高はピンポイントの値です。

風を遮る地形等が無い場合でも、10m離れただけで最大1.2mの差が確認されています。場所が変われば波高は大きく異なります。

c. 提供する波高は「有義波高」です。

有義波高は、測定値の大きなものから3分の1を平均したものです。

計算上でも百回に1回は2倍に近い波が来る事になります。

また、目視波高は有義波高に比べ1.3倍から1.5倍程度大きくなる関係にあります。

d. 台風等大時化時の波高には誤差を多く含みます。

年間の台風数は多くなく、また装置開発時に観測した台風が4件のため、当初この4件の観測値から計算のためのアルゴリズムが作成されました。 また、電波を利用する等の性質上から荒天時の精度は低くなる傾向があります。12mを超えるような大きな波高値の情報提供が出来ません。