Canoe

転覆した艇から再乗艇する方法
(セルフレスキュー)

 カヤックは細身の艇であり、技術が伴わない場合や気象海象の悪化によっては、転覆することがあります。
 転覆したカヤックを復原させることが出来ずに漂流する事故は最も多く発生しており、転覆した際、適切な対応を取ることができない場合、最悪命を落とす危険性があります。
 転覆後、一人で再乗艇(セルフレスキュー)することができるようにカヌーの関係団体等が実施する講習等を受講し、必要な技能を身に付けてから海上に出るようにしましょう。

1 再乗艇の方法

転覆したシーカヤックから抜け出す方法

 シーカヤックは下半身がコックピット内にあるほか、スプレースカートにより艇と一体化しているため、転覆した艇から再乗艇する方法を知っていなければ、転覆した際、パニック状態に陥り、艇から抜け出すことができなくなる可能性があります。講習の受講や事前の練習を行い、転覆に慣れておくようにしましょう。
 水中でスプレースカートを外すには、コックピットの枠(コーミング)に沿って手を動かし、スプレースカートのグラブループに手をかけ、前方へ押しながら引き上げます。
 スプレースカートを外したらコックピット脇に手を置き、ズボンを脱ぐような要領で艇から抜け出します。着用しているPFDの浮力により、水面に顔が出ます。足を抜くのではなくお尻を出すという意識を持つことが大切です。
 転覆した時、上半身が後ろ側に倒れた状態(仰向き)になるとPFD(Personal Flotation Device)の浮力で艇に押し付けられてグラブループに手が届かない事があります。転覆した瞬間に前屈の姿勢をとるように意識しましょう。
 初めて乗る艇や初めて使用するスプレースカートの場合、コックピットサイズやスプレースカートの密着度によって外れにくいことがあります。海に出る前には必ずスプレースカートを外す練習をするようにしましょう。
 コックピット内に置いた荷物の影響で動きが妨げられ、転覆した艇から抜け出ることができない場合があります。両足の間には、大きな荷物を置かないように注意しましょう。
 転覆した際、艇とパドルから手を離してはいけません。風などに流されるシーカヤックに泳いで追いつくことは非常に難しいことを理解しておきましょう。

 パドルを持ったまま、もう片手の手でスプレースカート先端のグラブループを掴みます。少し前傾すると簡単に掴むことができます。

 グラブループを前方向に押しながら引き上げるとスカートを外すことができます。シーカヤックから降りる時の動作と同じです。

 スカートを外したら、コックピットの脇を両手で押さえます。これによってお尻が抜きやすくなります。

 コックピットから脱出すると、すぐに水面に浮かび上がります。
 サイブレイスが装備されているシーカヤックでは、コックピットから足を抜く際に引っ掛けて怪我をしないように注意します。
 転覆してから海面に顔が出るまでは、わずか数秒間なので焦らないようにしましょう。

転覆したシーカヤックを復原する方法

 シーカヤックは前後にハッチがあり、ハッチ内は隔壁(バルクヘッド)で水密になっているためハッチカバーがはずれない限り転覆しても沈むことはありません。パドリングの失敗等によって穏やかな海で転覆した場合は、脱出後にバウ側へ移動し、バウを持ち上げながら反転させることで排水と復原を同時に行うことができます。

 立ち泳ぎをしながら一気にバウを持ち上げ、コックピットから排水されたのを確認した後、艇を反転させます。艇全体を持ち上げるわけではないので、それほど力がいる作業ではありません。

 反転させる際に再び海水が入らないよう、コックピットが空中にある間に素早く反転させます。

 この状態で十分な量の排水ができています。バドルは決して離さないように注意しましょう。

船尾側から再乗艇する方法

 海面が穏やかで、身軽な人であれば、船尾側から再乗艇することも可能です。比較的早く再乗艇できることから、スクランブルレスキューとも呼ばれています。

 後部のデッキに、横から腹ばいで上がった後に馬乗りになります。両足を水に入れシーカヤックを安定させます。

 腹ばいになったままコックピットまで移動します。重心を上げないよう、すばやく動きます。

 コックピットまで来たら、お尻を先に入れ、それから両足を折り曲げるようにして入れます。

 コックピット内が排水し切れていない場合は、ビルジポンプを使います。
 排水後はすぐにスカートを装着して、漕ぎ始めます。

パドルフロートを使用して再乗艇する方法

 パドルのブレード部に浮袋を装着し、パドルを支えにして再乗艇する方法です。
 考案したメーカーの名を冠してマリナー式セルフレスキューとも呼ばれています。

 パドルフロートを膨らませ、パドルブレードに装着します。作業中もシーカヤックに足を掛けるなど、艇から決して離れないようにしましょう。

 コックピットのすぐ後ろの後部デッキにパドルを固定します。固定具がないシーカヤックの場合は、パドルとコーミングを一緒に握ります。

 艇の側面から後部デッキに這い上がります。腕力がない場合はフロートで浮力が増したパドルのシャフト部分に足を掛けるなどの工夫をします。
 パドルが固定されていない場合は、シーカヤックとパドルの角度が直角になるよう保持します。

 両足をコックピット内に入れ、充分に両足が入りきったあとに反転すれば再乗艇は完了します。再乗艇する際、重心がフロート側にない場合は、逆側に再度転覆する可能性もあり、注意が必要です。再乗艇した後は必要に応じビルジポンプで排水し、スカートを装着します。

 排水後にパドルのブレードからフロートを外します。再び使用する可能性を考慮し、フロートを収納します。その後、すぐに漕ぎ始めます。

ロールによるセルフレスキュー

 セルフレスキューのうち、最も有効な方法は「ロール」と呼ばれる技術で、転覆状態から半回転して起きる方法です。
 ロールには、大別するとロングロール(持ち方を変え、パドルを長く使う)、ショートロール(パドルの握りはそのままで行なう)があり、細かく分類すると数多くの方法があります。
 ロールはカヤック独特の技術であり、一般的には特殊な技術と認識されていますが、実際はパドリングの一種であり、順を追って習えばそれほど難しいものではありません。
 ロールを適切に使えるようになれば、パドリングの失敗等で転覆した際、再乗艇する必要がなくなります。安全な環境、道具等を使用の上、指導員のもとで体に負担がかからない練習を行い、早めにロールを覚えるようにしましょう。

 まず、カヤックを起こすところがポイントです。慣れないうちは、身体を起こそうとしますが、艇が起きない限り、身体は起き上がれません。艇を先に起こすイメージでパドルと身体(腰のひねり)を使うようにしましょう。

 パドルで水を捉え、腰をひねることで艇を起こします。起きる順序は、下半身、上半身、頭です。頭を最後に上げるということが重要です。

 起き上がったら、次の動作に備え、すぐに漕げる態勢を作ります。

グループレスキュー(Tレスキュー)の方法

 グループ(2艇以上)でのレスキューになります。シーカヤックはグループで海へ出る場合が多いことから、グループレスキューをしっかり覚えるようにしましょう。

 転覆したら、カヤックとパドルを確保して助けを待ちます。グループ内で助けを求める合図を事前に確認しておきましょう。

 救助者は、転覆した艇のバウへ近づき、バウを持って自分の艇に引き上げ、さらに持ち上げて排水します。排水したら反転させて浮かべます。被救助者はバウの引き上げに船尾で協力しつつ、反転したら再乗艇します。

 お互いの艇の前後が互い違いになるように密着させます。被救助者はパドルフロート使用時と同じように艇の側面から後部デッキに這い上がります。
 艇に這い上がる前に確保していたパドルを救援者に渡すほか、救助者は相手の艇をしっかりと確保するようにしましょう。

 被救助者は身体を水平にしなければ上手く這い上がることができません。
 水泳練習用の「ビート板(キックボード)の要領でバタ足キックを行い、水平になったところで一気に這い上がります。

 這い上がるのに苦労する場合は、救助者は被救助者のPFDの肩部分を掴み、艇に引き上げるようにサポートしましょう。

 被救助者は、うつ伏せのままコックピット内に両足を充分に入れてから反転します。再乗艇が完了したら、スプレースカートを装着し、パドルを渡してもらいすぐに漕ぎ始めます。救助者はパドルを渡すまで艇をしっかり保持しておきましょう。

参考資料:(一社)日本セーフティパドリング協会 「セーフティ&レスキュー講座(基礎編)」

2 シットオン(トップ)カヤックに再乗艇する方法

 シットオン(トップ)カヤックは、平水状態での安定性(一次安定性)が高く、初心者でもすぐに漕ぎ出せ、その安定性ゆえにフィッシングに多用されています。
 しかし、シーカヤックと違い耐航性は低く、荒れた海(時化た海)に対応することが難しいほか、シート位置が高いため風の影響を強く受けます。波や風の影響で転覆した場合は、荒れた海(時化た海)での再乗艇が予想されます。一人で再乗艇することができるようにしっかり準備しましょう。

 カヤックフィッシング用の装備を施した状態です。この状態で転覆することを想定し、フィッシングのための艤装(ロッドホルダーや魚群探知器)の位置などを充分に考慮し、再乗艇が可能な状態にしておくことが重要です。

 転覆した場合に重要なことはすぐに艇を確保することです。艇を確保した後、片手は必ず艇を保持するために使います。風などで艇が流されてしまうと、泳いで追いつくことは非常に難しいことを理解しておきましょう。

 パドルと腕がリーシュ(流れ止めのロープ類)で連結されている場合は、リーシュが絡まることも想定されます。慌てずに冷静に対応しましょう。

 転覆した艇の下に足が入り込んでいたら外に出します。次に手前側(この場合は左舷)のハンドルを片手で掴み、艇の下に片方の手を伸ばして奥側(右舷側)のハンドルを掴みます。

 奥側の手を引きつつ、手前側の手を押し上げて一気に艇を起こします。

 艇を起こしたら、シート横の内壁をつかみ、水泳練習用のビート板(キックボード)でバタ足をする要領で身体を水平にします。

 内壁を押さえた手で艇を引き付けつつ、バタ足キックで一気に艇に這い上がります。バタ足キックは何度も行います。バタ足キックを連続することが重要であり、這い上がるための力が足りないと再び転覆してしまいます。

 上体が艇に乗り、顎のラインが艇の反対側を超えれば安定します。

 うつ伏せの状態から身体を反転させていきます。その際に重心を上げてしまうと再び転覆する可能性があります。低い体勢を保つことが重要です。

 反転してシートに座れる状態になったら上半身を上げて次の動作に入ります。

 足を片方ずつフットレストの位置に持っていきます。

 パドルリーシュでパドルを引き寄せて回収します。

  • パドルリーシュを使用していない場合もありますが、事前に艇側にパドルホルダーを装着しておくか、バンジーコードで確実に固定できるような工夫をして、両手を自由に使えるようにする必要があります。

 再乗艇が完了しました。再乗艇の過程でフィッシング装備を流出してしまった場合は回収することを前提に、気象海象の悪化から容易に回収することができない場合は、放棄して陸へ戻るなど、状況に応じた適切な対応を取るようにしましょう。

シットオン(トップ)カヤックの再乗艇に関する動画

【写真をクリックすると動画が再生されます】

画像及び動画提供:株式会社丸漕