MOTORBOAT

モーターボートの事故事例

 モーターボートは非日常を味わうことができる楽しい乗り物でありますが、事故を起こした場合、生命に影響を及ぼす大きな事故につながるおそれがあります。
 また、事故を起こした場合には船長は、その事故を惹き起こしたことについて刑事上、民事上の責任を問われるほか、免許の取消等の行政処分を受けることとなります。

 

衝突に関連する事故事例

事故事例 ①

【事故に至る経緯】     
 3月下旬、A船で釣りをするため1人で出港したAさんは、目的の釣り場に到着してからは機関(エンジン)を中立とし、釣りの準備をしていた際に、A船の西約100mにA船と同じ釣り場に向かって近づいてくるB船を認めました。
 Aさんは、B船のその後の動静を把握しないまま、A船の船首を北東に向けて漂泊しながら、右舷側から釣りを始めました。     
 一方、B船で釣りをするため同乗者3人を乗せ出航したBさんは、A船の東7m付近で船首を北東に向け、船外機を停止し釣りの準備を開始しました。     
 A船はしばらくして潮流により、船首の向きが北東から東になり、南西に約30m流された頃、右舷正横付近に干出岩が海中に見え始め、約4mの距離まで接近していることに気付きました。
 Aさんは、干出岩に乗揚げると思い、周囲の状況の確認をしないまますぐさま竿を揚げてスロットルレバーを前進に入れ、舵を左舷に取り増速させたところ、A船の船首部とB船の左舷船尾部が衝突しました。     
 Bさんは、釣りの準備を行っていたところ、後方からA船の機械音が聞こえたものの、漂泊中のB船を航行しているA船が避けてくれるだろうと思い、気に留めていませんでした。

【事故状況の分析】     
 船長のAさんは、B船の動静を確認しないまま釣りに集中していたことから、A船もB船も流され、B船がA船の左舷船首近くで漂泊していることに気付いていませんでした。一方、B船もA船が避けてくれるだろうと思い、釣りの準備に意識を向けて漂泊を続けたことから、後方からA船のエンジン音が聞こえたものの、回避する間もなく、A船と衝突してしまいました。     
 事故防止策として、船長は漂泊中であっても常時、周囲の見張りを適切に行うとともに、釣りに集中し過ぎることなく、付近の漂泊船等の動静を把握しておく必要があるとともに、付近の漂泊船が急に動き出すことを念頭に置き、直ちに回避できるように機関を中立運転としておくほか、音響装置を用いて自船の存在を知らせるとともに余裕のある時点に避ける動作が必要です。

引用元:運輸安全委員会事故調査報告書

事故事例 ②

【事故に至る経緯】     
 12月下旬、A船に同乗者2人を乗せ、釣りを行うため出港したAさんは、目的の釣場で2時間程度行った後、釣場を移動してしばらく釣りを行いましたが、釣果が上がらなかったため帰港することにしました。     
 Aさんは、次回の釣場を下見しながら帰ることとし、浅瀬の状況を確認するためGPSプロッターの画面を見ることに意識を向け、約20ノットで手動操舵により南東進中、突如船体に流木があたったような衝撃を感じ、主機を後進にかけて船体を移動させたところ、B船と衝突したことが分かりました。
 一方、B船に同乗者1人を乗せ、釣場に到着しポイントを探していたBさんは、魚の反応を確認しようとGPSプロッターと魚群探知機の画面を見ながら、約5ノットでポイントを周回していました。ポイントを周回するも、魚の反応が良くなかったので、移動しようと顔を上げたところ、右舷船首約5m~10mにこちらに向かってくるA船を認め、直ちにスロットルレバーを後進に入れるも、間に合わず衝突しました。      

【事故状況の分析】     
 Aさんは、釣りを終えて航行を開始する際、周囲に他船を認めなかったため、安全だと勘違いし、GPSプロッターを見ながら航行を続けたことから、B船の存在に気付かず衝突しました。     
 一方、Bさんも、釣場に到着し周囲を確認しましたが、他船を認めなかったので、その後は魚を探すことに意識を向けていたことから、A船の存在に気付かず衝突しました。     
 事故防止対策として、船長は航行中、周囲に他船はいないと思わず、また、GPSプロッター等の航海計器の画面にだけ意識を向けることなく、常時、周囲の見張りを適切に行うことが重要です。      

   
 
 
 

引用元:運輸安全委員会事故調査報告書

  
 

乗揚に関連する事故事例

事故事例 ①

【事故に至る経緯】
 11月下旬、Aさんは同乗者2人と釣りを目的に出港しました。目的の釣り場に到着してからは、機関を停止し潮上りを繰り返しながら釣りを行いました。しばらくして釣りを終え、帰港することとしたAさんは、GPSプロッターを作動させて手動操舵で操船にあたり、灯台の灯光を船首目標に、時々、GPSプロッターで船位を確認しながら航行していました。
 Aさんは、事故発生場所付近の操船には慣れており、岩の存在や浅瀬の拡延状況などの水路状況を把握していましたが、航行中、隣に座っていた同乗者に話しかけられたため、GPSプロッターの画面を確認し、変針場所まで距離があると思い、同乗者の方に顔を向け会話をしていたところ、突然衝撃を感じ、直ちに機関を中立としました。     
 Aさんは、後方を確認したところ左舷後方に岩が見えたので乗揚げたことに気づき、損傷状況を確認し、船首部に浸水を認めたことから、救助を要請しました。     

【事故状況の分析】     
 Aさんは、事故発生場所付近の操船には慣れており、岩の存在や浅所の拡延状況などの水路状況を把握していたものの、GPSプロッターの画面を確認し、変針場所まで距離があると思い、同乗者の方に顔を向けて会話し、思った以上に会話の時間が長くなり変針場所を通過したことに気付かないまま岩礁に乗揚げました。        
 再発防止策として、変針場所付近では周囲の見張りを適切に行って操船に専念するとともに、慣れた海域を航行する場合であっても、前路の状況及び船位をGPSプロッターで確認して航行することが重要です。また、夜間で視認性が低下する場合は、物標の見落としや見誤りの可能性が高まるので余裕を持って安全に航行できるルートを選ぶことが重要です。

引用元:運輸安全委員会事故調査報告書

    

事故事例 ②

【事故に至る経緯】     
 1月上旬、Bさんは同乗者2人を乗せ、目的の釣り場に向け航行中、船首方向に漂泊して釣りを行う約20隻の遊漁船やプレジャーボート等の集団を認めたことから、その付近で釣りを行うこととしました。 
 遊漁船等の集団に向けて航行中、左舷船首側に干出岩を認め、左舷約20~30メートル距離を離し同岩を通過したところ、突如船底に衝撃があり、岩礁の一部に乗揚ました。 
 Bさんは、主機は作動していたものの、前後進ができなかったことから救助を要請しました。

【事故状況の分析】     
 Bさんは、同海域を航行するのは初めてでしたが、以前遊漁船に乗船して同海域に来たことがあり、その際に、岩礁が目視で確認できたことから今回も同じように確認できると思い、事前に水路調査を行っていませんでした。また、事故当時、魚群探知機の機能を備えたGPSプロッターを作動させていましたが、魚影を探索しようと表示画面をプロッター及び魚群探知の分割表示としていたことから、プロッター表示が小さく、表示されていた岩礁に気付かず、乗揚てしまったものです。     
 事故防止対策として、航行予定海域について事前に水路調査を行い、潮位の変化を考慮したうえで岩礁から十分に距離を保ち航行するとともに、付近に浅瀬等がある場合は、障害物を確認できるようにGPSプロッターの画面表示を適切に設定することが重要です。     

    
  
     
   

引用元:運輸安全委員会事故調査報告書

   

機関故障に関連する事故事例

事故事例 ①

【事故に至る経緯】     
 6月下旬に船長であるAさんは釣りを目的に出港し、目的の釣り場に到着してからは機関を停止させ、漂泊の状態で釣りを楽しみました。     
 しばらくして風潮流により陸岸に近づいたことから移動のため機関を起動しようとしたもののセルモーターが回らず起動しませんでした。     
 Aさんは起動しない原因を探るも原因究明には至らず、航行不能な状態で風潮流に流され陸岸に乗揚げてしまったことから118番通報し救助を要請しました。当日は引き潮のため引き出しが困難であったことから、翌日の満潮時に引き出し作業を行い曳航救助されました。
 後日、整備事業者による原因調査をしたところ、セルモーターの配線が腐食していたためセルモーターが回転せず、機関の起動に至らなかったものと判明しました。なお、Aさんの愛艇は購入してから10年以上が経過しており、日頃から発航前検査は実施していましたが、日常の点検、整備を怠っていました。     

【事故状況の分析】     
 Aさんは出港前に発航前検査を行っていましたが、日常の点検、整備を怠っていました。今回の機関故障の原因は、整備事業者による開放点検を実施していれば防止できた可能性が高い機関故障でした。また、航行不能となった際に速やかに投錨するなど自船の船位保持ができれば風潮流による乗揚げも防止できた可能性があります。

事故事例 ②

【事故に至る経緯】     
 10月下旬に船長であるBさんは釣りをするためにホームポートを出港、目的の漁場に到着ししばらく釣りを楽しみました。
 釣りを終え帰港することとしたBさんは、ホームポート向け航行中、突如、冷却清水の温度上昇を知らせる警報が鳴ったことから、回転数を落として航行することとしましたが、しばらくして、エンジンから煙が出始め、機関が停止してしまいました。再起動を試みるも起動させることができず、航行不能に陥ったBさんは118番通報し救助されました。
 後日、整備事業者により調査したところ、海水ポンプインペラが経年劣化により折損しており、冷却海水を規定量送ることができず、オーバーヒートしたものと判明しました。
 Bさんの愛艇は、製造から10年以上経過していましたが、調子が悪い時にしか整備事業者の点検を実施しておらず、整備事業者による定期的な点検整備を実施していませんでした。      

【事故状況の分析】     
 Bさんは出港前に発航前検査は行っていたものの、整備事業者による定期的な点検整備は実施していませんでした。今回の故障部品は、定期的に交換を要する消耗品であることから、整備事業者による点検整備を実施していれば防止できた可能性が高い機関故障でした。

事故を防止するためのポイント

〇発航前・・・船体や機関等の点検の実施       
 発航前は、船体と機関周り、燃料の量、バッテリーの状態を点検するとともに、最新の気象・水路情報を入手しましょう。       
〇航行時・・・常時見張りの徹底       
 航行時は、他の船舶の動向や浅瀬・定置網など周囲の水域の状況を継続して把握する必要があることから、常時適切な見張りを実施しましょう。       
〇故障時に備え・・・救助支援者の確保       
 発航する際は、万が一の機関故障の発生に備え、マリーナ等の救助艇による救助体制をあらかじめ確保しておきましょう。また、併せて入航時刻等を家族やマリーナ等へ連絡しておきましょう。