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安全な航行をするための船長の心得
海上では、安全確認を怠り、事故や災害に遭遇すると生命の危機に直結します。船長は大型船、小型船に関係なく「責任」と「役割」があります。「船長」という役割には大きな重みがあることを自覚しましょう。
船長の責任と役割
(1)最高責任者として自覚
モーターボートや水上オートバイなどのプレジャーボートであっても、漁業など事業用の小型船舶であっても、船長は、常に同乗者の安全を守り、船舶の運航や安全管理など、すべてに対して責任を負う最高責任者です。 したがって、モーターボートの船長は、安全に航行するために、あらゆる状況において迅速かつ的確な判断をするとともに、リーダーシップを発揮し、常に船と同乗者の安全を守ることを第一に考えなければなりません。
(2)社会的な船長の責任
船長は、出港してから帰港するまで、すべてに責任を負わなければなりません。船長の最も重要な責任は、航海を安全に成し遂げることです。
そのためには、船の運命は船長自身が握っている自覚を持ち、安全を確保するための方法、手段を確認しておかなければなりません。
(3)同乗者に対する船長の責任
同乗者にライフジャケットを着用させるだけでなく、同乗者に対して海中に転落するおそれのある場所を周知することや、同乗者が危険を感じるような操縦をしないなど、常に同乗者の「安全」を意識しておかなければなりません。
また、同乗者がゴミを廃棄したり、無免許の同乗者に操縦させて事故を起こした場合にも、その責任はすべて船長が負うことになります。
(4)事故を起こしたときに船長が負う
法的責任
事故を起こしたとき、船長は「刑事責任」「民事責任」を負うとともに、「行政処分」を受けることもあります。
①刑事責任
(事故の内容により刑事責任が問われます)
衝突や乗揚を起こした場合、事故の内容によ
り「業務上過失往来危険」や「業務上過失致死
傷」などの刑事責任を負うことになります。
②民事責任
(相手がある場合には民事責任を問われます)
船長は、被害者に対して、民法に基づく
「損害賠償責任」を負うことになります。
③海難審判法による処分
(事故の内容により行政処分を受けます)
行政処分には、次の種類があります。
・免許の取消し
・業務の停止(期間は1カ月以上3年以下)
・戒告
(5)船長の遵守事項
モーターボートの船長は、法令に基づき次の遵守事項を守らなければなりません。
①発航前の検査
航行の安全に支障をきたさないよう、燃料やオイルの量の点検、気象、水路情報等の収集、船体・機関の状態等の検査を実施しなければなりません。
②救命胴衣の着用義務
船内にいる場合などを除き、乗船している者は救命胴衣等の着用が義務づけられています。
③自己操縦(無資格者操縦の禁止)
モーターボートで港則法の港内や海上交通安全法の航路内を航行するときは、免許受有者が直接操縦しなければなりません。
④適切な見張りの実施
航行の安全を確保するために、周囲の水域の状況や他の船舶の動向等を十分に判断することができるよう、常時適切な見張りを確保しなければなりません。
⑤危険操縦の禁止
遊泳者等に危険を及ぼすおそれがある操縦を行ったり、遊泳区域内に不用意に侵入する等の操縦は禁止されています。
⑥酒酔い等操縦の禁止
飲酒等は正常な操縦ができない恐れがあるので、飲酒等した場合は操縦してはいけません。
⑦事故時の人命救助
事故が発生した場合等には、人命救助に必要な手段を尽くさなければなりません。
(6)保険の加入
小型船舶の事故は、他船や岸壁との衝突、漁網の損傷、人身事故など、重大事故になる可能性が高く、その補償には大きな経済的負担を伴うことにもなります。
20トン未満の小型船舶のうち、旅客船や遊漁船など営業用船舶には、船客傷害賠償責任保険、遊漁船業者総合保険や漁船保険などがあり、強制的に加入が義務つけられていますが、一般のプレジャーボートには強制的な保険制度はないので、オーナーの責任として運航形態に応じた任意保険に加入し、賠償責任や捜索救助など万一に備えておく必要があります。
(7)役割分担を明確にする
陸上から離れて航行する船舶では、同乗者も協力して安全を確保しなければなりません。そのためには、誰が船長として指揮するのか、補助者は誰かという同乗者の役割を明確にしておくことが大切です。
特に、小型船舶操縦免許受有者が複数乗船する場合には、指揮する者も複数となり方針の統一が図れなくなるような状況にもなりかねません。事前に船長と補助者など、各人の役割をしっかりと確認してから出港しましょう。
出港前の準備
(1)航海計画の立案
航海計画は、船舶の性能、船長や同乗者の経験や能力などを考慮して無理のないように立てることが重要です。たとえ、近くを航行するときや航行経験のある水域を航行する場合でも、必ず航海計画を立てるようにしましょう。
航海計画は、次の事項を考慮に入れて立てましょう。
①目的地の情報
(予定航行水域、釣り場の海況等)
②荒天となった場合に避難できる場所
③機関の修理ができる場所
④燃料を補給できる場所
(2)航海計画等の届出
トラブルの発生に備えて、家族やマリーナ、所属先などに、航海計画とともに次の事項を連絡しておきましょう。
①船長および乗船者の氏名、住所、連絡先
②行動予定(目的地、寄港地、行動時間)
③帰港予定日時
④船の船名や特徴など
(3)航海予定水域の調査
航海計画には、航行予定水域や周辺施設を調査しておくことが重要です。少なくとも次の事項はしっかり調査して、計画を立てるようにしましょう。
①潮汐や潮流の時刻等
②水深、障害物の位置、目標物
③入港する港の状況
〇海しる
海しるでは、地形・地質、海象、海域利用等の情報を200種類以上掲載しています。
(4)船体・機関の点検の励行
モーターボートの海難事故の原因のうち、最も多いのは機関故障であり、その大部分が機関の整備不良や取扱い不良等の人為的原因によるものです。
出港前には必ず、船体や機関の点検を行うとともに、装備品や法定備品、その他の必要備品が備わっていることを確認しましょう。
また、機関本体の故障は、たとえ発航前検査を実施していても、防げない場合が大半です。シーズン前点検のほか、機関取扱説明書に準じた定期点検を実施し、実施後は点検記録をしっかり残しておきましょう。
(5)気象海象情報の収集
出港前には必ず、気象情報(天候、風向、風速、波の高さ、警報、注意報など)を入手しましょう。気象情報はテレビやラジオ、インターネットから収集することができます。
海上保安庁では、全国各地の灯台などで観測した風向、風速、波高などの局地的な気象・海象の状況、海上模様が把握できるライブカメラ映像などの 「海の安全情報」をリアルタイムに提供しています。あらゆるツールを活用して気象海象情報を収集しましょう。
(6)地方情報の収集
出港前には必ず、航行予定水域の情報(自主規制、航行禁止区域、定置網の設置場所など)を収集しておきましょう。
沿岸水面には、国や地方自治体が定めた法令や規則、また、ローカルルールなどがあり、これらの情報はしっかりと把握しておかなければなりません。
都道府県条例などは各自治体のウェブサイトから、地方情報は地元のマリーナやマリンショップ、あるいは漁協などを通じて情報を得ましょう。
(7)連絡体制の確保
緊急時に曳航等をしてもらえるマリーナや整備事業者等の連絡先を確保するとともに、水に濡れたり、水面に落としても沈まず使用できる防水ケースに入れて携帯電話、スマートフォンを持ち運ぶようにしましょう。
(8)服装に対する注意
軽快に動きやすい服装が基本です。
靴はデッキシューズや運動靴など滑りにくい靴を履きましょう。
日焼け、ケガの防止のために、夏でも軽いウインドブレーカーなど素肌の露出の少ないものを着用するようにしましょう。
また、天候の急変にも対応できるよう、レインウェアやブーツ、セーターなどの着替えや予備のウェアも準備するようにしましょう。「夏でも冬じたく、晴れても雨じたく」が基本です。
(9)体調管理の徹底
体調が悪い場合は、注意力が散漫になり、判断力が低下するなど、事故の原因になります。
前日には十分な睡眠をとる、空腹で乗船しないなど、体調管理に努めましょう。また、救急医薬品を船内に常備しておくことも大切です。
①体調が悪い人がいる場合は、出港を中止する。または、体調の悪い人を陸上に残して出港するなど、適切な判断が必要です。
②航行中に体調を崩す人が出た場合にも、帰港するか、最寄りの港で下船させるなど、適切な判断が必要です。
(10)同乗者に対する注意
同乗者には、出港前や航行中に必ず次の注意喚起を行い、安全を確保しましょう。
①必ずライフジャケット(救命胴衣)を着用させましょう。
②座席に着座させる、または手すりなどにつかまらせましょう。
③船外に身体を乗り出させないようにしましょう。
④むやみに移動させない。移動するときは低い姿勢で手すりなどにつかまるよう指示しましょう。
⑤大きな波などを横切る場合は、同乗者に知らせましょう。
⑥発進時、増速時、変針時、減速時には、状況に応じて同乗者に知らせましょう。
航行中の注意
(1)無理をしないこと
航行中は、気象・海象の変化に注意し、天候が悪化しそうになれば、目的地に向かう途中でもただちに帰港するか、又は避難するなど、安全を第一に判断しましょう。危険な状況になった場合、それを乗り切ることも船長の能力ですが、危険な状況になる前にそれを察知して回避することが船長としてより大切です。
(2)見張りの励行
モーターボートの事故のうち、見張り不十分による事故が多発しています。海上では、航行する船舶をはじめ、浅瀬や岩礁、定置網などの漁網や漁具、ゴミなどの漂流物といった航行の支障となるものが数多く存在します。海上では航行中、錨泊中を問わず見張りが最大の安全対策です。
(3)ルールの遵守
航行中は、海上交通の法令や都道府県の条例に定められた交通ルールを守らなければなりません。また、ある地域で限定的に定められているローカルルールや社会通念上のルールについても守ることが大切です。
(4)他の水域利用者に対する配慮
海上は、レジャーだけではなく多種多様な目的を持った人々によって利用されています。遊泳区域には侵入しない、大型船と出会ったら早めに避けるなど、他の水域利用者の特性を十分に理解し、安全な航行を心がけましょう。
入港後の措置
(1)入港の連絡
出港届を出したマリーナには、確実に帰港届を提出すること。また、出港前に連絡した家族や所属先にも、無事に入港したことを報告するようにしましょう。
(2)入港後の手入れ
使用後は、その都度、真水にて外装部及び冷却経路の塩分や泥を除去するようにしましょう。また、燃料やオイルの補充など、次回の航行に備えるようにしましょう。
(3)適切な保管
入港後は、許可された場所で他の船舶の迷惑にならないように係留することが大切です。また、モーターボートの係留場所はマリーナ以外に漁港やフィッシャリーナもありますので、そこでのルールについても必ず確認しましょう。
事故を防止するためのポイント
船長は出港してから帰港するまですべてに責任を負わなければなりません。船長には「責任」と「役割」があることを自覚し、ルールを守り安全に楽しみましょう。